インサイトラボ新潟Blog

地方自治体とビッグデータ活用における課題について

作成者: donut|2022年6月09日

こんにちは、donutです。

6月に入り、関東甲信でも梅雨入りが発表されました。
新潟県の梅雨入りももう間もなく...といったところでしょうか。
気温差や低気圧に何かと振り回されがちですが、適宜体調を整えながら梅雨を乗り切りたいです。

さて、今回のブログでは先日donutが参加した以下のオンラインセミナーについて
触れていきたいと思います。

行政DXセミナー 自治体におけるデータ活用の課題と実践例

こちらのセミナーでは、ビッグデータの活用における様々な課題や取り組みについて、
今後の課題ともいえる「自治体のデジタル化」を主軸にスピーカーの方々より解説いただきました。

自治体DXの意義について

突然ですが、こちらのグラフをご覧ください。

このグラフは、文部科学省が毎年刊行している「文部科学白書」の中で、
経済協力開発機構(OECD)が2018年度に参加国の生徒に対し、ICT活用について調査を行った結果になります。
「生徒の学習達成度調査(PISA)」において、学校外でのインターネットの利用時間はOECD平均を超える一方、パソコンを使用して宿題をする頻度がOECD加盟国中最下位という結果になりました。

問題のグラフを改めて見ると、日本では「全くかほとんどない」の割合が約80%ありました。
「日本はICT推進に対して消極的」という声も聞きますが、ここまで低いという事実に改めて驚きました。

※全体の統計については以下のリンクより閲覧が可能です。

令和元年度 文部科学白書(文部科学省より)

さらに、ICTや自治体DXの推進の背景には「2040年問題」があります。
少子化による人口減少をはじめ、団塊ジュニア世代(※)が高齢者(65歳以上)になることで、
高齢者人口がピークとなる2040年頃に日本社会が直面する問題として提起されています。
(※)日本で1971年(昭和46年)~1974年(昭和49年)頃に生まれた世代が対象です。

なお、この2040年問題に関しては、過去のブログ記事でChimeyさんより
Tableauを使用した将来推計人口のデータと共にとても分かりやすく解説いただいています。
こちらの記事をお読みいただくことで、2040年問題に関する知識がより深められるかと思います。

2040年問題と自治体DX推進計画について

ICTやDX推進、2040年問題などへの対策として、総務省や自治体では「共同化」をメインに、
「人の手がない場合でも、できる仕事は機械に一任すること」の重要性を示しています。
重点的に取り組むべき事項として、以下が提示されています。

 ・マイナンバーカードの普及促進
 ・行政手続きのオンライン化
 ・自治体情報システムの標準化、共通化
 ・AI、RPA、テレワークの推進
 ・セキュリティ対策の強化

上記の取り組みを達成するため、デジタル人材の確保や育成が課題に上がりますが、主に以下が重要視されています。

  ◎自ら課題を発見し、指摘できること
  ・最新技術や他の自治体、海外事例に惑わされず、
   目の前の現実に向き合いながら観察し、課題を理解できること。

  ◎デジタルの力を引き出す「仕事の仕方」を設計できること
  ・人に負荷をかけず、リスクに強く、シンプルな方法を見つけられる。
  ・政府の動向や技術の動向といった情報を収集し、適切に取捨選択ができること。

 

ビッグデータ分析ツール(DS.INSIGHT)と新潟県燕市での活用事例について

DS.INSIGHTは、ヤフーが保有するビッグデータを使用したリサーチツールです。
今回参加したセミナーでご紹介頂いたものになりますが、主な特徴としては以下になります。
 
 ・People(興味関心・トレンド・ニーズ)、Place(人流や場所別の関心事)を中心に可視化が可能

 ・スピード感に定評があり、前日のデータから過去のデータ(約3年分)まで遡り、何度でも分析が可能

 ・ある特定の検索ワード(例:住民税)とあわせて検索されているワード
  (例:市町村名、控除額等)を調査することで、住民の関心やニーズの収集が可能

 ・データとして可視化された検索推移を見ることで、最も検索された時期に
  企業や自治体のホームページやSNS等で住民に対して質の高い広報が実施できる。

DS.INSIGHT 検索・位置情報などのビッグデータ分析ツール

なお、このDS.INSIGHTは、コロナウィルス流行における各都道府県での人流分析の可視化や、
ものづくりの街として知られる新潟県燕市でふるさと納税を対象に活用されています。

DS.INSIGHT導入前の燕市では、ふるさと納税のプロモーションはリーフレットなどの
紙媒体が中心で、詳細な効果が見えづらいことが課題にありました。
WebやSNSでのプロモーションが当たり前となっている中で、「ビッグデータの活用は必須ではないか」という庁内意識が高まり、寄付者の属性分析を実施することになりました。

そして、効果的なプロモーションを実施するという目的の下、ヤフーのデータ分析の導入に至りました。
なお、燕市が取り組んだデータ分析としては以下になります。

  ◎キーワード分析
  ・寄付者の属性や、どのようなキーワードを用いて検索してサイトにアクセスしているのか?
  ・燕市における人気の返礼品を対象に、返礼品の名称や事業者名をベースにキーワードを選定して分析を実施

返礼品事業者の分析結果を元に、ツインバード工業株式会社においてコーヒーメーカーを広告バナーに設定した結果、高い宣伝効果が獲得できたそうです。

活用事例:新潟県燕市 燕市の新たなデータ活用戦略 さらなる地元の魅力発信へ

常に膨大なデータを管理し、分析を行うヤフーならではの強みが感じられました。

行政・自治体におけるデータ活用の普及策

今回のセミナーでは「行政においてデータ活用が必要な理由」及び「自治体でデータ活用が普及しにくい理由」の議題について、パネリストの方々から様々な意見が挙げられました。

 ◎「行政においてデータ活用が必要な理由」
 ・データ化して比較することによって問題点を見つけることができる。
  特に、自治体の場合は住民に対する説明責任が生じる。

 ・詳細な説明と検証作業が重要になる。
  「なぜこれに取り組むのか?」といったことを合理的かつ論理的に
  数値で分かりやすく説明し、効果について検証するためにもデータは重要

 ◎「自治体でデータ活用が普及しにくい理由」
 ・自治体では、これまで取り組んできた業務を安定的に繰り返すことを求められていた。
  新しいことにチャレンジして何らかの問題が発生するリスクを取ってはいけない分野でもある。
  また、「ビッグデータ」という聞き慣れないワードに対する取っつきにくさや
  内容の難しさも普及しにくい一因として考えられる。
    
 ・行政では決められたことを「早く、正確に」行うことを求められている。
  特に、自由度が低い現場の場合、細かなデータ分析に時間をかけるよりも
  実際の経験に基づいて行う方法が重視されているため、普及しにくい可能性がある。


「新しい事業に取り組むことで生じるリスク」「データ分析には時間がかかる」といった意見も一理ありますが、
分析によって詳しく数値化されることで、問題点の可視化や、データの中から新たに得られる要素も
少なからずあるのではないかと考えました。

ICT推進や自治体でのDX推進には現在も様々な問題や課題がありますが、住民に対する知名度の向上はもちろん、
それらを活用することによるメリット/デメリットについて行政が積極的に知り、学んでいく姿勢も重要だと感じたセミナーでした。

ここまでお読みいただきありがとうございました。